Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Pont l’évêque

旅の余韻 その2

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私達の乗車したパリ発ノルマンディー行き列車は、お目当ての Trouville に着く途中、数カ所で停車した。その一つにポン・レヴェック駅 (Pont l'évêque) がある。同じ車両に、夏休みのお孫さんを連れた年配のマダムが乗っていて、金髪の活発そうな小さな男の子と、物腰の上品なそのマミー( mamie / おばあちゃん) との組み合わせが面白く、その会話に時々聞き耳を立てていたのだけれど、件の駅に停車している間、マダムがこう言っているのが聞こえた。

Toi, qui aimes le brie et le camembert, tu devrais aimer le pont l'évêque.

「あなたはブリーとカマンベールが好きなんだから、ポン・レヴェックだってきっと気に入るはずよ」

そう、どこかで聞いたことのある駅名だと思ったら、有名なフロマージュの名前であった。

私の夫も、もっぱらブリーとカマンベール派である。あまり冒険はしない方だけれど、マダムが言うのだからきっとポン・レヴェックも好みに合うに違いない。ひとつ、帰りの手みやげに持ち帰ってもいいなと思った。

結局は、荷物になるのと匂いが強いのとで、鞄に入れて帰るのは諦めたけれど、パリに戻った翌日にさっそく近所のフロマジェ (fromager / チーズ専門店) に走って入手し、ノルマンディーのみやげ話と一緒に食卓に供してみた。

 

なんでも、このポン・レヴェクはフランスで最も古い伝統的なフロマージュの一つで、昔は Angelot (アンジェロ) という名前で呼ばれていたのだとか。あの臭いでアンジェロだなんて、一体何日間お風呂に入っていない天使なんだか!と、可笑しくなってしまった。

 

金曜は来客があることになっていたので、ついでにこれに合うワインもと思い、やはり近所に最近できた専門店に足を踏み入れた。にこやかな店のムッシューに助言を仰ぐと、「フロマージュと合わせるなら白」と勧められた。チーズに白ワイン?赤ではないの?とびっくりして訊き返すと、「そうおっしゃるのも無理はない。実はフランス人でさえ知らない人が多いのです」と、ここだけの秘密とでもいうように目配せする。そう言えば、ずっと以前にワインの知識を少しかじった時、赤ワインには赤い食べ物、白ワインには白い食べ物が合うと習ったものだ。更にムッシューは続ける。「ポンレヴェックなら、やはり一番合うのはノルマンディーのシードルですがね。」そう、人間と同じで、同じホームタウンを持つ者同士は気が合うのだ。ワインのそういうところが楽しいなと思う。このムッシューの店には、足繁く通うことになりそうだ。

 

さて、せっかく出したポン・レヴェックだけれど、8月の休みに向けてダイエット中の夫は珍しく指一本触れない。今年はマルセイユのビーチで水着姿になる予定だから、いつになく真剣なのだ。私はと言えば、普段は乳製品をそれほど取らないけれど、ポン・レヴェックに逸話や思い入れがあるのは確かに私の方だから、今回はこれを全部頂くことになりそうだ。8月のビーチのほうは大丈夫かしら?