Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Maison hantée ?

オバケのはなし


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バスルームから出てきた息子が、何やら浮かない顔をしている。

どうしたの?と訊くと、「オバケがジュースをひっくり返して全部飲んじゃった」と恨めしそうにのたまう。オバケ?

ははあ、さては浴槽の縁に置いていたジュースを倒して溢したのだなと察する。

お風呂好きの彼は、いつも本 (マンガ) を数冊とプラスチックのコップに入れたジュースを浴室に持っていき、お風呂に浸かってのんびり飲んだり読んだり長居するのが好きだ。バスタイムは1日の終わりのリラックスタイム。

今日はボトルの底にちょうど一杯分残っていた Kombucha (微かに甘い発酵飲料で、ソーダのようなもの) を楽しみにしていたから、ひっくり返して相当がっかりした様子。それをオバケの仕業としたのは、叱られたくなかったのと、せっかくの楽しみを自ら失ってしまった理不尽さを、誰かのせいにしてしまいたかったのだろう。

バスルームを見ると、床にジュースの跡は一滴もない。お風呂の中にこぼしたの?と訊くと、肩を落として頷く。この子はむすっとした顔でずっとジュースのお風呂に浸かっていたのだと思うと、可笑しくなってしまった。ケラケラ笑っている私を他所に、息子は相変わらず憮然としている。

バスタブを覗くと中は既に空っぽ。ジュース入りのお湯は底に一滴も残ってない。その辺りは、一回ごとにお湯を捨てるフランス式入浴スタイルなのだ。「オバケがご馳走さまでしたって言ってるねぇ」とからかっても、息子は笑いもしない。そう、食べ物の恨みは深いのだ。それも、恨めしそうな顔をしているのはオバケではなく息子のほうなのだと思うと、ますます可笑しかった。

 

このオバケのタネを撒いたのは、実は他でもない私である。何度閉めても振り向くと開いている玄関の靴箱の戸とか、エビフライのしっぽだけを載せたままいつまでもテーブルに残って片付かないお皿とか、私は全部それをオバケのせいにしている。オバケがイタズラして靴箱の戸を開けるのだ。オバケがテーブルにまだ着席しているのだ。「まったく我が家ときたら、ホーンテッドハウスなのねぇ!」と聞こえよがしに叫ぶ。夫と息子はホントホントと頷いて、オバケの開けた戸を締めたり、なかなか立ち去らないオバケのお皿を取り上げたりしてくれるのだ。

オバケ屋敷の生活は愉快だ。