Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Mardi effectivement un peu gras

3月1日

 

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3月の最初の日。私はこの日を、勝手に「春一番の日」としている。私にとって意味のある日。毎年この日は家に花を飾る。

 

今年の3月1日は、ちょうどカトリック教のマルディ・グラに当たる。私流に訳せば、「こってりな火曜日」。なんでも、翌日の「灰の水曜日」からしばらく食を慎ましやかにする時期に入る前に、脂っこいものを口にする日なのだとか。軽いワンピースに身を包む春を目指して、ダイエットする直前に、1日だけ羽目を外す日 といった感じかしら。

 

それだからという訳ではないけれど、息子を習い事のある16区まで送った後、ブーランジェリーに入ったついでにガラスケースのぷっくらとしたシュー(クリーム)が目に止まり、思わず食指が動いて熱々のエスプレッソと一緒に堪能してみた。店先に並んでいたテーブルに陣を取ってみたけれど、ワクチンパスの提示なんて胡散臭いことは誰も求めて来なかった。寒空の下、店の人達も表に出るのが億劫だったのかもしれない。この国に暮らしていると、こういったいい加減さの恩恵に預かることが時々ある。そういうところが楽ちんで暮らしやすいなと思う。

 

エスプレッソの紙コップに印刷してある名前が目に入り、ふらっと入ったその店が、実は噂に聞いていた日仏カップルの経営する店だと気が付いた。いつか父が「赤坂あたりで非常に高価なクロワッサンを売っていて、長い行列ができるそうだ」と話していた人気店の支店だ。そんな様子はお首にも見せず、朝のマルシェの撤去跡を残す広場に面したそのブーランジェリーは、実に閑散としている。地面に散らばった野菜カスをつつくカラスなんかを横目で眺めながら、私はひとり静かにエスプレッソを啜った。出来心で買ったシューは、とっても美味しかった。

いつか父がまたパリに来たら、息子の習い事のある日に、本場パリの「赤坂の高級クロワッサン」をここで買ってあげよう。この夏にでも叶うといいけれど。

 

夜は息子が Netflix でなにか映画を観たいと言うので、夕飯を早く済ませ、好きなものを選ばせたところ「ゴーストバスターズ 2」を選択。偶然にも、ストーリーはちょうどぴったりマルディ・グラの設定だった。ビンゴ!なかなか冴えている。

 

フランス語に「ゴースト」を指す言葉はいくつかある。中でも、今日観た映画の中でも度々使われていた revenant というのが独特だ。直訳すると、「戻ってきた人」ということになる。単語数の多さは、オバケちゃんにもいろいろニュアンスの違いがあることを示しているのかしら。オバケなんて信じたがらない国のくせに、なんだか可笑しい。

 

ちょうど明日は、revenant が見えるという能力を持った女性が書いた、興味深い本を貸してくれたアデルと会う約束だ。

 

日々の生活というのは、しりとりゲームとかドミノゲームに似ているなと時々思う。今日耳にしたり見たり考えたりした何かに、明日はちゃんと続きが付いてくる。自動的に。「神様の思し召」のようなものだと思う。

 

3月1日は母の誕生日だ。もう歳を取らないことに決めた母が、私たち家族の心に「戻って」来る日なのだ。