Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Quelle tuile ! Monsieur Macaron

フランスがフランスらしさを失った日

 

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昨晩、大統領の演説でワクチン接種強化対策が報じられた。強化というよりも強制、実質上義務と変わりない。

 

迫る今月21日までに、職種によっては接種完了が義務付けられた以外にも、一般人でも接種を受けていない人達は映画館や美術館はさることながら、レストランやカフェにも入れない。飛行機はもちろん、電車にさえ乗れない。ショッピングセンターも然り!つまり、普通の生活が送れなくなるという訳だ。

発表から適用までの猶予が、たった10日しかないという異常に性急な言い渡しであることに加えて、なんと、対象年齢は12歳以上という下限年齢の低さ、その幅の広さ!その上、ヴァカンスに入ったばかりというタイミング!!

C'est complètement dingue !!

夏休みをまともに過ごしたいのなら、さっさとワクチン接種しなさい という、ヴァカンスを命とするとフランス国民に向けて、脅しにも似た強気の勧告だ。ヨーロッパ諸国を見渡してみても、このような強硬策は今のところ他に例を見ない。義務という言葉を上手に避けてはいるものの、メディアが報じるところの obligation déguisée (オブラートをかけた義務) 、つまり実質上は疑いのない義務なのだ。

Quelle tuile !! フランスよ、一体どうしちゃったの?

 

夏休み直前の息子の歴史の授業は、16世紀周辺のヨーロッパのヒューマニズムの誕生に焦点を当てていた。教科書にあった短い説明は非常に抽象的で、大人でもそれを読んだだけでは把握できるものではなかったけれど、要は人が人たることの尊重、個人の尊重、人間にスポットを当てて世界を見るという考え方を指すらしい。

よい意味では、そんな歴史的ベースが、例えばフランスの現在の、ネコも杓子も臆せず政治などに意見する自由な気風を産んだのだろう。ひとりひとりに主張の権利がある。団体よりも個を重んじようとする。

逆にあまり感心しない点では、自然による支配から逸脱した崇高なる存在として、人間を生きとし生けるものの頂点、自然の支配者という位置に置くところだ。

 

私がフランスを愛する理由の一つは、例えば中国などとは対照的に、この国では国家よりも個人が尊重される傾向があるところ。生産性や機能性よりも人間性に重きをおく傾向がある。ところが、ここへ来てそれが急にひっくり返ったような気がしている。まさか、ヨーロッパのヒューマニズムの代表国フランスが、このような強行対策を世界に先立って打つとは思ってもみなかった。

 

クルクルと意見や方針を変える大統領 というのがマクロン氏への主な悪評であるけれど、本当に一貫性がないように思えてしまう。有無を言わせず、関係する業界との協議もなく、義務化することはないと言っていた自らの言葉を覆す形での決定打。個人の自由にうるさいフランスたる精神は一体どこに行ってしまったのだろう?お陰で世間は蜂の巣を突ついたような状態になっている。

 

テレビ演説の直後、友人アデルからちょうどSMSが届いたので、マクロンならぬ我らが「マカロン氏」の政治的な信念がよく分からない と送ったら、同感!と返事が来た。何を隠そう、彼女もこの対策に大いに首を傾げている1人なのだ。

 

去年といい今年といい、まったく、驚くことが絶えない。未来のビックリボックスには、まだまだ予期せぬビックリが隠されているのだろうか?どうせなら、もう少し楽しいビックリを出して欲しいんだけれどな。