Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Il s’appelle Acrobate

マリーンのところの猫

 

f:id:Mihoy:20211030103653j:image

 

先日お昼に呼ばれた友人マリーンのところには、息子が3人、夫がひとり、猫が一匹住んでいる。猫はもともと拾いネコで、聞けばやっぱりオスなのだと言う。

 

男の子ばっかりの「デスタン (宿命) ね」と言うと、笑って肯定するマリーンだ。紅一点の彼女は男性陣に珍重され、輝かしい一家のクイーンとして君臨している。そのバランスが傍目にも絶妙な具合に保たれていて、幸せそうな一家である。

3人の息子は家事をよく手伝う。マリーンが旦那さまと仲良く手を繋いで歩いているのを時々目撃する。家の中はいつもよく片付いている。息子ひとり、夫ひとりのちっちゃな王国でいつも手一杯のリトルクイーン、すなわち私は、隣国の立派な女王様にあやかりたいものだと常々思っている。

 

もう一人の友人、エドウィッジが到着するのを待ちながらキッチンでお喋りしていると、背後に何やら気配がする。振り向くと、大きなネコが果物の入ったバスケットに首を突っ込んでいた。話に聞いていたアクロバット。いつ遊びに来ても不在だったから、お目見えするのはこれが初めて。私の中で伝説化され始めていた矢先に、やっと姿を現した次第だ。

 

それにしても、不在の時はもちろん、居る時でさえも一切音をたてないのが不思議な感じだ。振り向くといつの間にかそこに居て、もう一度振り向くと、もうとっくに居ない。カサリともコソリとも音がしない。床の敷かれた家で、一匹だけ、目に見えない絨毯暮らしをしている。

 

よく手入れされたアクロバットの毛並みは、焦げ茶と白と黒。三毛猫はメスだという説はデマであるらしい。

エドウィッジが遅れて到着する。キッチンで立ち話する女主人とその客人達。その林立する足の合間を、絡まりもせず、解けるサテンのリボンのように、するりするりと縫って歩く。太っちょのくせに。

 

マリーンがポットを探して足元の戸棚を開けると、半ば反射的に首を突っ込んで覗き込もうとする。猫のくせに、野次「馬」精神なんだから可笑しい。

ランチの準備の整ったテーブルに気まぐれに飛び乗っては怒られ、急いで飛び降りてしょげている姿も可笑しい。

 

私達が食後に今度はソファーでお喋りしていると、やっぱり音もなくやって来て、隣に座って喉をゴロゴロ。どこに居てもリラックスできる羨ましい才能の持ち主だ。どこでもうたた寝、居眠り、午睡に昼寝。まったく天晴れな生き物だこと!

 

マリーンによると、アクロバットというのは朝夕の名前で、日中は他所の家でショセット (靴下) と呼ばれているらしい。両前足の先っちょが白いからだ。よそ様の家にも、ちゃっかり専用のベッドと餌皿があるらしい。

招かれてもいないのにやって来て、頼みもせずにご飯にあり付き、可愛がられ、ちゃっかり居場所を作ってしまうのだから見事だ。他所に寝床と名前をいくつ持っているか知れない。

 

当初は猫を飼うのを一番反対していたパパが、今では仕事の後の憂さ晴らしに、毎日のように胸に乗せて癒されているのだそうだ。

猫のアクロバット。素知らぬ顔して、人を手懐ける天才なのだ。