Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Rendez-vous avec vous

晩夏のランデヴー

 

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今年の夏は南仏に行かなかったのであまり縁のなかったイチジク。

 

通りかかった今朝のマルシェで軒先に並んでいるのを見付け、立ち止まる。小箱に入って行儀良くずらりと陳列されている。

ここは食いしん坊の私。どれが一番形良く美味しそうか、大差の無いイチジク達を物色していると、野菜売りのムッシューが近付いてきた。「どれも一緒ですよ!さあ、買った買った!」と活気のある調子で急き立てられるかと思ったら、「どうぞお好きなのを選んでください」と、のんびりした調子でにっこり微笑む。中華系フランス人のムッシューだった。南仏の香りとアジアのリズム。優しく心地よい組み合わせだ。お言葉に甘えて、ゆっくり吟味して一箱買って帰った。

 

紫の実を包丁で2つに割ると、ジャムのようにねっとりとした赤い果肉が現れる。その瞬間ハッとして、ああ、やっぱり私はこの果物を愛しているのだと、口に含める前に既に甘酸っぱい気持ちになる。これはもうほとんど恋だ。私としたことが、どうしてあなたのことを忘れて一夏を過ごそうとなんかしたのかしら。浅はかだったわ。そんなこと出来るはずがないのに。と、ひとり台所で、再び炎上する恋心に身を焦がす。

 

輪切りにしてお皿に乗せたら、運良く冷蔵庫にあったレモンをきゅっと絞り、ソファーの前のテーブルに持って行く。

慌ただしい一日の始めに、時間を少しだけ止めて、晩夏の朝ご飯。遠ざかってかゆく季節を惜しみながら。このノスタルジックな果物は、いつも少しだけさよならの香りがする。