Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

En un éclair

にわか高級菓子

 

f:id:Mihoy:20230118085139j:image

 

日曜にエクレアを2つ買ってきた夫。

ひとつ食べて、もうひとつはお楽しみにとっておいたのに、「おかしいな、なくなってるぞ」と冷蔵庫に頭を突っ込んで探しているので、「ああ、さっき稲妻(エクレア)の勢いで去っていったわよ」(Je l'ai vu partir à la vitesse de l'éclair) と伝えておいた。苦笑いの夫は、仕方なく冷蔵庫の奥から出てきたヨーグルトで我慢の程。

 

火曜の今朝。

いつものように体育の授業のある競技場まで息子を送った後、いつものように修道院跡の庭を横切り、日も登らずにまだ暗い空の下を引き返す道すがら、暖かい明かりの灯るブーランジェリーに立ち寄った。

香ばしいパンと甘いヴィエノワズリーの匂い。表のウィンドウには、エピファニー(公現祭)が過ぎても、焦げ茶色に焼けたガレット・デ・ロワ(王様のガレット)が何食わぬ顔で並んでいる。

 

バゲットを一本と、ついでにエクレアもひとつ注文する。ショーケースの中のエクレアが心なしかいつもより小さいのは気のせいかな?と思いながら。さては、パン焼き職人のムッシューが今朝は分量を間違えたかな?と微笑ましく想像しながら。

ところが、カウンターで値段を告げられて、半分眠っていた頭にピリッと小さな電光(エクレア)が走った。4€90? バゲットとエクレアだけで 5€近いだなんて、衝撃だ。

先方の計算違いかと思ってショーケースに再び目をやると、エクレアには正々堂々と3€50 の値札が付いている。私の記憶が正しければ、先日までは3€もあれば買えたはずだけれど。バゲットに関しても、先月までは1€20であったのが一気に1€40に値上がっていた。

 

昨今ほとんどニュースを聞かない私。それでも、パン職人達にとってインフレの影響が深刻であるという話を耳にしたのを思い出した。小麦粉を始めとする原材料と、電気やガスが一気に値上がりしたせいだ。いつもの街角のパンとお菓子が、一等地にある気取った高級店とすっかり同じ値段になっている。

かくして、片手にバゲット、もう片方の手にエクレアの三角形の包み紙を持って、サントノレ通りでも歩いているつもりで家まで闊歩して帰った。寒空の下、大通りを飾るイルミネーションが氷菓子のようにキラキラ輝いて綺麗だ。

 

急激なインフレだなんて、歴史の教科書の中だけの話のように思っていた。色々な意味で、現代を生きる私達は歴史のターニングポイントに居るのだろう。

 

夜、仕事から帰った夫に、「冷蔵庫に高級なお菓子が入ってるわよ」と教えてあげたのは言うまでもない。「電光石火(エクレア)の速さで去っていったのが、同じスピードで戻ってきたのよ」と話すと、合点が入ったようで苦笑していた。