Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Chacun sa rentrée

ママンの新学期

 

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9月

長い長い夏休みが終わり、いよいよ息子の高校生活がスタートし、私は今日から自分のライフワークの一つを再開した。

指折り数えてみたら、実に8年間のブランクを経ての再スタート。いつから時間はこんなに速く流れるようになったのだろう?

時の流れは、時計が示すような一定のリズムを保ってはいない気がする。時計やカレンダーは、便宜上の人類共通の目安に他ならない。実際には一つ一つの生き物に固有の時間があって、それは自在に伸びたり縮んだりするのだ。私の8年間のブランクは、気が遠くなるほど長い一瞬だった。

 

初日の今日、久々に、恩師であり友でもあるマリリンのアトリエに足を踏み入る。

マリリンに初めて出会ったのは10年前のこと。小柄で、歳もあまり違わないベビーフェイスの彼女とは、初めて目と目が合った時から仲良くなれそうだという直感があった。そしてその勘に間違いはなかった。

 

その翌年、私は母を亡くし、命には限りがあること、時は刻々と流れているのだということ、そんな当たり前の事を今更のように強く意識した。母の存命中に娘の活躍ぶりを披露することが無かったのを悔やんで、その日を堺にクリエーションに邁進しようと決心したのだった。マリリンは、そんなこんなの相談に乗ってくれた友人の一人だった。

 

さらにその翌年、今度はそのマリリンが体を壊した。それを知らされた時、当人の方が辛いのに、不覚にも私が泣いてしまったことを覚えている。

その後、私は家のこと息子のことで他の事にはとても手が回らなくなり、クリエーションどころではなく、アトリエに通い続ける余裕もなく、気が付けばあれよあれよと8年という月日が過ぎていた。

 

そして今日。すっかり回復した、いや、以前よりもパワーアップしたマリリンの姿を目にして、「色々あったけれども、お互いによくここまで来たね」と心の中で思った。

時間はいつだって私たちの味方。前進あるのみ。

 

さて、新たなアトリエのメンバーは8人の女性。

隣に座っていたステファニーは横浜に住んでいたことがあると言う。親日家の55歳。「だからあなたに会えて嬉しいわ」と人懐っこく笑う。目元にくっきりと引かれたアイシャドウがお洒落で素敵。日本では、自宅でフランスの家庭料理教室を開いていたとか。しなやかでバイタリティーのある女性だ。

 

反対隣に座っていたマリオンは、明るい金髪おかっぱ頭で可愛らしい人。2才になったばかりの女の子がいるらしい。ボルドー出身の35歳。室内建築家として働くワーキングウォーマンだ。小さい子供がありながら、仕事も趣味も卒なくこなせるママンもいるのだと感心する。同じ女性として誇らしいやら、眩しいやら。

 

それにしても、彼女たちと話していて面白いなと思ったのは、初対面のお喋りで自から自分の年齢を言うところ。しかも、もう何歳、まだ何歳 といった意味合いも特に込めず、実にさらりと年齢を告げる。カッコいいなと思う。

 

向かいに腰掛けたクルクルヘアーのクレールは、会話の合間に離婚歴があることを公然と明かす。ユーモアを込めて。

「モン・マリ?(私の夫?) 私の作品に文句を言うから、そんな奴はお払い箱にしてやったの」

みんなで笑った。

 

私はと言うと、家で息子と日本語でばかり会話しているせいで語学力がすっかり衰えていたので、フランス語で芳しくさえずる女性陣に囲まれるのが新鮮だった。

そう、語学の上達に必要なのは、パソコンに釘付けのマリ(夫)ではなく、お喋りなコピンヌ(女友達)なのだ。お喋りが進んだついでに、肝心の手作業のほうはあまり捗らなかったけれど。

でも、それでいいのだ。ガウディも言っていたではないか。時間がかかるのは良いことだと。焦るのはやめた。ゆっくり進もう。