Ma boîte à bijoux 日々のビジュー

パリでの日々、思ったこと

Un lieu à soi

本屋に行った。

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息子用に注文していた本が届いたので、それを取りに行ったのだけれど、近所にあるこの行きつけの書店はいつも魅力的な本が並んで手招きしていて、一度入るとそう簡単には出られない。小さなラビリンスだ。だいたい、手ぶらで出てこられた試しがない。財布の紐をぎゅっと締めて、よくよく用心しなければならない。

 

本の物色はトランプの神経衰弱にちょっと似ている。平積みに並んでいる本の中、目に留まった一冊のまず表を眺め、ひっくり返して裏書きに目を通し、また元に戻す。少し離れたところの別の気になる一冊の前で立ち止まり、ひっくり返して眺め、また元に戻す。あちらこちらでそれを繰り返してから、やっぱりこれだと確信した本の前に戻り、それを手に取る。最終的には、手にしたそれに引っ張られるようにレジに連れて行かれることになる。はい、お買い上げ。 

 

どういう訳だか、今、個人的に旬を迎えているのがヴァージニアウルフだ。彼女の「自分だけの部屋」の新訳本が出ていた。実は、独特の描写が読み辛くて、日本語でさえ何度も放り出したウルフだけれど、この人にはとても気になる何かがある。生きていて知り合いであったなら、きっと私は彼女と気が合ったに違いないと僭越ながら思っている。本の良いところの一つは、著者の生きた時代やその思考レベルが自分とどんなにかけ離れていても、読者がそんなことを抜け抜けと言ってしまって許されるところだと思う。

 

そんな訳で、新しいピンクのウルフを持ってルンルンと家路に付こうとしたのだけれど、待てよ、家に帰ればこれを静かに読む場所も時間もない。だいたいこの本に手が伸びた理由の一つは、まさにそれなのだ。"A room of one's own" 

そこで、途中にあった閑散としたクレープリ (crêperie / クレープを出すカフェレストラン) に席を取り、エスプレッソのダブルを頼み、ひとり静かに本をめくる。たまに息子と夫を放っておいたところで文句は言われまい。

訳者の前書きを面白く読んだところで、給仕の女の子が来て言う。「マダム、申し訳ありませんが、そろそろカフェの時間はお終いでディネ (ディナー) の時間になります。このテーブルは予約も入っているので・・・」時計を見ると19時を少し過ぎたところ。フランスは20時からディナーが始まるのが常だけれど、子供連れの多い週末のクレープリは少し早めのようだ。どちらにしても、我が家の「ごはんは?」時計も鳴る頃なので、残りのエスプレッソを飲み干し、コインを置いてテーブルを後にした。

私にも書斎があったらいいのにな。